水道修理の専門家として長年現場を回っていると、お客様から「ペットボトルで直そうとしたけれど駄目だった」という相談を受けることもあれば、逆に「ペットボトルで直ったので点検だけしてほしい」と言われることもあります。プロの視点から言わせていただければ、ペットボトルを用いた詰まり抜きは、状況次第で非常に強力な武器になります。洗面所の詰まりの八割以上は、髪の毛に洗顔料や皮脂が絡みついた「バイオフィルム」と呼ばれる粘着性の汚れが原因です。このような柔らかい汚れに対しては、ペットボトルが生み出す空気圧の振動は、汚れの結合を断ち切るのに極めて効果的です。我々が使用するプロ用の真空式パイプクリーナーも、原理はペットボトルと全く同じですが、より大きな体積の空気を安定して送り込めるよう設計されています。ペットボトルで成功するためのコツは、ボトルの口と排水口をいかに「完全密閉」できるかにかかっています。少しでも隙間があれば、圧力が逃げてしまい、詰まりを動かすだけのエネルギーが伝わりません。また、お湯を併用するのも一つの手です。四十度から五十度程度のぬるま湯を洗面ボウルに張り、その中でペットボトルを操作すると、水の重みが加わることで、空気だけの場合よりもはるかに強い衝撃波を詰まりの箇所に届けることができます。ただし、この方法には明確な限界があります。もし、洗面所の詰まりの原因が「固形物」であった場合、ペットボトルによる加圧は事態を致命的に悪化させる可能性があります。例えば、ヘアピン、指輪、化粧品のキャップ、あるいは子供が落とした小さなおもちゃなどが排水管に挟まっている場合、圧力をかけることでそれらが配管のさらに奥、床下のメインパイプの方まで押し込まれてしまうのです。そうなると、洗面台の下のトラップを外すだけでは済まなくなり、床を剥がして配管をやり直すという、数十万円単位の工事が必要になることもあります。流れが悪くなった時、まず「最近何かを落とした記憶はないか」を自問自答してください。もし心当たりがなく、徐々に水の流れが滞ってきたのであれば、ペットボトルは最も手軽で安全な処置となります。プロの道具を呼ぶ前に自分で試す価値は十分にありますが、あくまで「柔らかい汚れ」が相手であることを忘れないでいただきたい。判断を誤らなければ、ペットボトルは家庭の平和を守る最高の味方となるはずです。