水道修理の現場に立ち続けて三十年、温水洗浄便座の普及とともに歩んできた私の経験から言わせてもらえば、洗浄水が止まらないというトラブルは、かつてに比べてその性質が大きく変化しています。昭和から平成初期の製品は、構造が単純だったため、物理的なバネの故障やゴムの劣化が主因でした。しかし、今の製品はセンサーとコンピューターの塊です。お客様から「ボタンを押しても止まらない」という電話を受けると、私はまず「リモコンの電池を替えましたか」と尋ねます。意外に思われるかもしれませんが、壁掛けリモコンの電池が切れかかっていると、洗浄開始の信号は送れても、停止という重要な信号を送る力が残っていないことがあるのです。本体にボタンがないタイプは、リモコンが唯一の通信手段ですから、電池一つで大惨事になりかねません。また、近年の最新機種には、万が一の事態に備えた高度な安全設計が組み込まれています。例えば、一定時間が経過すると強制的に止水するオートストップ機能や、内部の漏水を検知するとメインバルブを閉じる回路などです。しかし、これらの安全装置も万全ではありません。ノズルに付着した汚れが乾燥して硬くなり、それが物理的なストッパーとなってノズルの戻りを阻害すると、最新のセンサーですらお手上げ状態になることがあります。私たち業者が現場で行うのは、単に水を止めることだけではありません。なぜ止まらなくなったのか、その背景にある「環境」を見ることです。トイレが極端に狭く湿気が籠りやすい、洗剤の使いすぎで電子部品が腐食している、あるいは地域の水質が硬く石灰が溜まりやすいなど、原因は様々です。最近はDIYで取り付ける方も増えていますが、接続が甘かったり、止水栓を半開きにしていたりすることで、内部の水圧バランスが崩れ、故障を誘発しているケースも見受けられます。水が止まらないという恐怖を経験したお客様に、私はいつも「十年経ったら、それはもう家電の寿命ですよ」と伝えています。陶器の便器は一生ものかもしれませんが、その上に載っている精密機械はそうではありません。最新機種への買い替えは、単なる贅沢ではなく、安心を買うための投資であると、現場の人間として強く実感しています。
ベテラン修理工が語る洗浄ノズルの誤作動と最新機種の安全設計