それは、明日の重要なプレゼンを控え、深夜まで資料を作成していた時のことでした。一区切りついたところで顔を洗おうと洗面所に向かい、蛇口を捻ったのですが、数秒もしないうちに洗面ボウルに水が溜まり始めました。最初は少し流れが悪い程度かと思いましたが、水位は下がるどころか、石鹸カスのような白い浮遊物と共にじわじわと上昇し続け、ついには排水口が完全に見えなくなってしまいました。深夜二時を回り、静まり返った家の中で、私は立ち尽くしました。明日も朝が早く、業者を呼ぶ時間もなければ、こんな時間に開いているホームセンターもありません。しかし、水が流れない洗面台を放置したまま寝ることは、衛生面でも精神面でも耐え難いことでした。藁にもすがる思いでスマートフォンを取り出し、詰まりの直し方を検索したところ、目に飛び込んできたのがペットボトルを使った方法でした。幸い、キッチンには飲み終えたばかりの二リットルの炭酸水のボトルがありました。私はまず、洗面ボウルに溜まった汚水をコップで汲み出し、バケツに移す作業から始めました。排水口付近が見えるまで水位を下げたところで、次にオーバーフロー穴にガムテープを三重に貼り付け、空気が漏れないように厳密に封じました。準備を整え、ペットボトルのキャップを外して、その口を排水口に力一杯押し当てました。一回、二回とボトルを潰してみますが、最初はボコボコと空気が漏れる音がするだけで、手応えがありません。私はボトルの口の周りに薄手のタオルを巻き付け、より密閉度を高めてから、全身の体重を乗せるようにして一気にボトルをクラッシュさせました。すると三回目、管の奥から「ゴボッ」という今まで聞いたことのないような鈍い衝撃音が響きました。何かが動いた感触がありました。私は確信し、夢中でペコペコとボトルの押し引きを繰り返しました。すると、ボトルの口を離した瞬間、溜まっていた水が大きな渦を巻いて、ものすごい勢いで吸い込まれていったのです。あの時の爽快感と安堵感は、今でも鮮明に覚えています。真っ暗な深夜の洗面所で、一人でペットボトルと格闘した結果、一円もかけずに平穏を取り戻すことができたのです。翌朝、何事もなかったかのように輝く洗面台の鏡を見て、あの時ゴミ箱にあったペットボトルが、私の絶体絶命の危機を救ってくれた真のヒーローであったと、感謝の気持ちを抱かずにはいられませんでした。
深夜の洗面台パニックを救ったペットボトルの奇跡