築三十年の実家に引っ越してから一週間、私は浴室の排水不良という地味ながらも深刻な問題に直面していました。シャワーを浴びていると、数分もしないうちに足元にくるぶしまで水が溜まり、まるで行水でもしているかのような有様で、おまけに水の引きが極端に遅いのです。ところが、排水溝の蓋を開け、中にある古いプラスチック製のワントラップ、あの逆さのお椀のような部品をひょいと持ち上げてみたところ、溜まっていた汚水がゴボゴボという威勢の良い音とともに一気に消えてなくなりました。最初はワントラップに髪の毛が絡まっているのかと思いましたが、掃除をしても全く改善せず、ワントラップを戻せばまた水が溜まり、外すと流れるというループが続きました。不思議に思ってネットで調べてみると、排水溝ワントラップ外すと流れるというキーワードが山のようにヒットし、そこには空気溜まりや二重トラップ、配管の詰まりといった専門用語が並んでいました。どうやら私の家の排水管は、ワントラップがあることで密閉状態になり、奥にある空気の逃げ場がなくなっていたようなのです。思い切って地元の水道屋さんに相談したところ、彼は私の説明を聞いただけで「ああ、それは配管の奥が相当汚れているか、通気が悪い証拠ですね」と即答しました。実際にファイバースコープカメラで管内を見せてもらうと、驚いたことに排水管の内側には、何十年分もの蓄積と思われる石鹸カスが白く固着し、まるで洞窟の鍾乳石のように張り出していました。これでは水は通っても、空気の入る隙間がありません。ワントラップを外すと流れるのは、そのわずかな隙間を空気が無理やり抜ける道ができるからだということでした。作業員の方が一時間ほどかけて丁寧に高圧洗浄を施すと、バケツをひっくり返したような量の白い塊が屋外の排水桝へと流れ出していきました。洗浄後、ワントラップをしっかりと装着してシャワーを最大にしても、水は一点の淀みもなく吸い込まれていきます。今回の騒動で痛感したのは、ワントラップを外すと流れるという現象は、決してワントラップ自体が悪いのではなく、もっと深い場所にある不具合を教えてくれるバロメーターだったということです。もしあのままワントラップを外したまま使い続けていたら、家の中に下水の臭いが充満し、冬場には暖房で温まった空気が下水から虫を呼び寄せていたことでしょう。一見すると部品を外すだけで直ったかのように見える現象の裏には、物理的な気圧の原理と、長年の汚れという蓄積された歴史が隠されていました。今では排水溝の掃除をするたびに、あのワントラップが正常に機能していることのありがたさを感じています。水回りのトラブルは、つい自分で部品を弄って解決した気になりがちですが、根本的な原因は自分では見えない配管の奥底にあるということを、多くの人に知ってもらいたいと思います。