それは平穏な日曜日の午後のことでした。私は自宅のトイレでいつも通りウォシュレットを使用し、用を足し終えて停止ボタンを押しました。しかし、いつもなら数秒で収まるはずの水の勢いが全く衰える気配を見せません。もう一度、今度は少し強めにボタンを押し込んでみましたが、虚しくカチカチという音が響くだけで、ノズルからは温水が勢いよく噴出し続けています。私の頭の中は一瞬で真っ白になりました。このままでは便器から水が溢れ出し、トイレが水浸しになってしまうのではないかという恐怖が襲いかかってきたのです。慌てて立ち上がると、今度は着座センサーが反応しなくなったせいか、水が壁やドアに向かって飛び散り始めました。私は反射的に蓋を閉めましたが、隙間から漏れ出す水に服を濡らしながら、必死で解決策を考えました。まず思いついたのは、テレビのCMで見たことのある水道業者の電話番号でしたが、スマートフォンはリビングに置いたままです。この窮地を救ってくれたのは、かつて父から教わった「家電が狂ったらまずコンセントを抜け」という単純な教訓でした。濡れた手で触れる恐怖はありましたが、意を決して便器の脇にある電源プラグを引き抜きました。すると、あれほど激しく出ていた水が嘘のようにピタリと止まったのです。静寂が戻ったトイレの中で、私はしばらく呆然と立ち尽くしていました。床に散った水を拭き取りながら、なぜあんなことが起きたのかを考えましたが、結局その日は怖くて二度と電源を入れることはできませんでした。翌日、メーカーの修理担当者に相談したところ、ボタンの接点不良と内部のバルブに小さなゴミが詰まっていたことが原因だと分かりました。修理代金は出張費を含めて二万円近くかかりましたが、あのまま水が出続けて家の中が水浸しになる損害を考えれば、安いものだと思わざるを得ませんでした。この一件以来、私はトイレに入るたびに、まず止水栓の場所を確認する癖がつきました。マイナスドライバー一本あれば水を止められるという知識を持っていれば、あの日あんなにパニックになることもなかったはずです。形あるものはいつか壊れると言いますが、まさかトイレという最もプライベートで無防備な場所でその教訓を学ぶことになるとは思いもしませんでした。今では新しいウォシュレットに買い替えましたが、停止ボタンを押して水が止まるたびに、当たり前の日常のありがたさを密かに噛み締めています。
トイレで水が止まらなくなりパニックになった日の記憶